2023/08/01
タイトル | The secret history of Ghengis khan:King of kings |
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作者 | Sorogdog Jargalsaikhan |
発売日 | 2022年3月14日 |
価格 | 定価:本体5,709円(税込) |
内容紹介
[紹介 ]
作家、監督ソロゴンドッグ・ジャルガルサイハン
1959年12月24日生まれ、モンゴル国立大学、ポーランド、モスクワで学び、モンゴル民主化運動にも作品で参戦。暑すぎた夏が1987年に大ヒットする。
20年間の執筆活動の中で150本の劇場脚本を手がけ、25本が映画化、書籍化もされているモンゴル国近現代芸術を代表する文学劇作家である。46歳で書き下ろした「チンギス・ハーン秘史」は、モンゴル大帝国を築き上げる中で実在したチンギス・ハーンを取り巻く複数の人間模様を写実的に表した作品である。
[本書概要 ]
人類史上最大規模の世界帝国である「モンゴル帝国」の基盤を築き上げ、無一文からモンゴル帝国の初代皇帝にまで登り詰めたチンギス・ハーン。8世紀前に遡った時代風景を、歴史書に沿って現代的に表現しながら、テムジンがチンギス・ハーとなりモンゴル大帝国を築き上げていくまでの苦悩、葛藤、陰謀、愛、セックス、殺し、戦略、戦術という、いまだ嘗て描かれることのなかった生身の喜怒哀楽に触れ、 一人の人間の成長記録とも読み取れる人間味溢れる人物像にせまっている。本書は、現在のモンゴル国において国家創建の英雄として神格化されている「チンギス・ハーンの歴史」という枠にとらわれた英雄史譚的な類書とは異なり、モンゴル国内の国民感情としてはタブーとされてきた事実を記し、モンゴル帝国時代の人物背景を、よりスピード感溢れる描写と新しい表現方法で現代的に描いたフィクション小説である。
[解説]
本書は、チンギス・ハーンを取り巻く9人の登場人物の異なる主観を「群像的手法」で描いている。モンゴルの遊牧生活、哲学、シャーマニズム、戦術、人間と馬や狼との関係、自然との係わり方に触れながら、それぞれの登場人物が抱く独立した世界観と視点ですすめられる同書は、読者を深く、ゆっくりと800年前の時代背景に惹き込み、まるで モンゴル草原の風を感じながら、チンギス・ハーンと共に時間と空間を共有し、時代を走り抜けている様な、躍動感を体感させてくれる作品に仕上がっている。
本書は、全9章で校正されており、チンギス・ハーンと深い関わり合いを持ち、彼を語る上で外すことの出来ない人物9名が登場する。
本妻である「ボルテ」、深い友情を交わした戦友「ジャムーハ」、公私ともに運命をゆだねた呪術者であるシャーマン「テブ・テンゲル」、実母「ホエルン」、実弟「ハサル」、側室「 クラン」、長男「 ズチ」、側近の一人「ボールチ」、そして、チンギス・ハーンの本名である「テムジン」である。
特に、優れた指導力で勢力を拡大していく中、テムジンから「チンギス・ハーン」という尊称をうけるに至ったチンギス・ハーンの本質を、諸部族全体の統治者たる大ハーンという角度からではなく、本名であるテムジンという等身大の姿に落としこんだ展開となっているのが本書の読みどころである。これにより、チンギス・ハーンの固定的なイメージを払拭しながらも登場人物それぞれが持つ複雑な感情と情景に、より深い広がりを持たせているのが、類書にはない本書だけの特徴である.歴史小説という範疇と概念を覆す、自由でダイナミックな作品は、容易に感情移入が可能な奥深い内容に仕上がっているといえる。
著者は、モンゴルと世界との文化的生活様式の違い、社会主義崩壊後に直面した深刻な貧困と社会混乱を経験する中で、モンゴル国民の誇りや名誉の象徴として自然発生的に作り上げられた英雄神格論に配慮しながらも、「チンギス・ハーン」 神格化にともない偶像化された国家創建の歴史の上に国力の誇示を重ね合わせる国民全体の風潮こそ、モンゴル国の現代文学の発展を鈍化させ、新しい時代に踏み込めない要因を証明している、と警鐘を鳴らす独自の見解を明らかにしている。中世モンゴルの歴史書「元朝秘史」やモンゴル帝国の発祥と発展を記録する重要文献「集史」の文献に忠実に沿いながらも、群像劇という独特の表現方法と芸術性を融合させ、モンゴル国の歴史文学を新しい切り口から世界に向けて表現することを目的に書き下ろしたとされている。
世界帝国を作り上げたモンゴルの「強さ」を英雄的視点から賞賛する国内の見解とは反対に、騎馬遊牧民族の殺戮、略奪、襲撃、破壊への世界的イメージは、一方で「野蛮な侵略者」と批評されることも事実である。しかし、モンゴル帝国の誕生によって内陸交易が早まり、 銀基準の貨幣経済や商業システムが形成されたことで東西世界がつながったこともまた歴史的事実である。そして驚くほど短期間の間に勢力を強めながらも、異なる宗教観を束ね上げ、世界で初めての国際都市を形成して行くチンギス・ハーンの本当の強さは、軍事力に依存した圧力ではなく、宗教観を含めた異文化を容易に受け入れ、柔軟に対応した「寛大さ」であったというのが、著者が現代社会に啓蒙したい本質的なメッセージである。