3spice POD出版 ライブラリー

タイトル パリの冬
作者 菅 佳夫
発売日 2018年6月20日
価格 定価:本体1,496円(税込)

内容紹介

一歩先も見えないような濃い霧が立ち込めるのを合図のように冬がやって来ます。未だ薄暗い朝に、屋根という屋根が霜で真っ白に凍り、陽光も弱く日の短い、灰色の寒い一日が始まります。冬です。杉などの針葉樹以外、木々の葉はすっかり落ちて枝ばかり、今迄葉に隠れていたヤドリギや小鳥の巣が見える様になります。晴れることは稀で空気が冷たいので、コートの襟を立て、街角で売っている熱々の焼き栗、クレープやゴーフルを買って食べながら歩くのも好いものです。クリスマスが近づきますと、店やデパートのショーウインドーは、それぞれに趣向を凝らして華やかに、贈り物への夢を育んで、子供達ばかりか大人までが楽しくなります。街にはデコレーションが眩しい程に煌めき、山小屋を模した小屋が並んで“クリスマス・マーケット”、飾りや地方の名産物を売って、賑やかに雰囲気を盛り立てます。クリスマスには、普段めったに食べない贅沢な生牡蠣、伊勢海老、キャビア、フォアグラ等を奮発、これに冷たく冷やしたシャンペン、貴腐ワインのソーテルヌなどが食卓に上がります。七面鳥を食べる習慣は無いのでしょうか、むしろ“シャポン”という霜降り肉のチキンのローストか、“ジゴ”という柔らかな仔羊の腿肉が好まれているようです。デザートには“薪”を表すケーキ“ビューシュ”が欠かせません。寒波が押し寄せ、朝夕の気温が零下になると、慈善団体は警察署と協力して、森の中、ビルの片隅、橋の下、駐車場などに寝起きする人達を探して説得、病気や凍死から救う為に救護施設に収容します。大晦日は“聖シルベストルの日”と云って、忘年会も盛んです。年や時間を忘れて、終電車を気にせずに楽しめる様、そして酔っ払い運転を避ける為にも、メトロやバスは元日の昼まで無料で終夜運転のサービスです。元日は1日限りの休日ですが、参賀をするのでもなく、特にこれといった祭事もなく静かなもの、美術館や店は勿論カフェですら殆どが閉まってますから、シャンゼリゼ大通りやオペラ通り等、観光客が何かあるのではないかと探す様な、手持無沙汰に歩く姿が目立ちます。こうして正月も過ぎますと“冬物一掃大売出し”の“ソルド”が始まり、店のウインドーには-30%、-40%、中には-70%等と大書きしたビラが貼られて、寒さまでも一掃の雰囲気に賑わいます。暦の上では旧正月に中国では正月“春節”を迎え、パリでは19区・20区のベルヴィル、それに13区のショワジイやイヴリィの中國街(唐人街)は、紅いビラや提灯に飾られ、お国の衣装に着飾った人達がリズムに合わせて練り歩き、龍が金の玉を追って踊り、爆竹こそ禁止されてますが、1週間に亘って賑やかにパリっ子達を楽しませてくれます。そうこうするうちに南仏からミモザの花便り、「立春」を迎える頃には少しずつ朝が早く明けて、日射しも強くなり、空気も心持ち柔らかくなると、春が近い事を感じます。この頃になってもう一度寒波が戻り、雪が降ることもありますが、花も無く、冬が寒くて長いものですから、明るい暖かな春を大いに待ち焦がれます。寒い間はピィとも鳴かず何処に居たのか、メルル(クロツグミ)が夜明け前から唄い始め、木々の芽が紅く膨らみ、こちらの人が“アマンディエ”と呼ぶ小桜の様な花が咲けば、あとは土手や草原にクロッカス、プリマベーラ、連翹、マグノリアなどが次々に咲いて春の到来を嬉しく知らせてくれます。

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